現代は短い言葉で、的確に伝わる文章を書く力、”短文力”が重要です。
そのちょっとしたコツや工夫点、広告業界のライティングスペシャリストがお伝えします。
広告制作に携わる人のみならず、すべての人の”短文力”アップに役立ちますように。
今回は、「食べる」の敬語表現について考えていきたいと思います。
立ち位置で変わる広告表現――
「食べる」の尊敬語と謙譲語
「いただく」と「召し上がる」、どっちがどっち?
もう何年も前の話になりますが、打合せ中、同僚がお客様に対してこう言ったことがありました。
「どうぞ、アイスコーヒーをいただいてください」
あああ、気遣うつもりで掛けた言葉が、間違っている……。
幸いにもお客様は、「では遠慮なく」と言ってアイスコーヒーを飲んでくださり事なきを得ましたが、「いただく」は「食べる」の謙譲語。本来なら自分の行為をへりくだって言うときに使う言葉です。
では、目上の人(敬意を払うべき人)に対してはどのように言うのが正しいでしょう。
そう、「召し上がる」ですね。
こうして文章で読むとあたりまえのように感じるのですが、いざというとき迷ってしまう、とっさに出てこない、これが敬語のやっかいなところです。
「食べる」の場合、私たちはこんなふうに覚えています。
食事をするときは「いただきます」と言いますよね。これは食べ物(あるいは作ってくれた人)に対して、ありがたいという感謝の気持ちを表しています。「食べる」行為をする自分を下げるので、謙譲語です(=原則として自分以外の人には使いません)。
一方、尊敬語の「召し上がる」は、高貴な人に対して使う言葉だと覚えておくといいでしょう。たとえば身に付けているドレスも「着る」とは言わず、「お召しになる」と表現します。
「エリザベス女王はブルーのドレスをお召しになっています」
といった具合です。
英単語を覚えるときなどと同じく、何かに関連づけておくと迷わずに済むのではないでしょうか。
立ち位置で変わる、尊敬語と謙譲語
さて、ここまで理解していても、広告制作では迷うことがあります。
たとえば最後にお好みで、レモンをしぼって食べるレシピを紹介する広告記事のケース。
「お好みでレモンをしぼって召し上がれ!」
「お好みでレモンをしぼっていただきましょう!」
どちらも間違いではありません。
前者は単純に、発信する側(書き手)が読み手の行為に対して敬意を表しています。
後者は、書き手も読み手も等しく食べ物に対してへりくだっています。
これらは、書き手が「どの立ち位置にいるか」によって変わってきます。
一般的なレシピ紹介のパンフレットや冊子の説明文では、尊敬語の「召し上がれ!」のほうが適切でしょう。
ただし、イラストキャラクターの吹き出しに使うコピーなど、書き手と読み手がより近しい場合、食べる行為に書き手も含まれる(ニュアンスを出したい)場合などは、「いただきましょう」を使ってもいいと思います。
読み手との関係性によって言い回しが変わってくるのが文章の難しさ。敬語はその最たる例です。
迷ったときは原点(広告制作の主旨、目的)に立ち返ってみましょう。
また、下記のリンク記事を参考に、今一度、読み手との関係性や、書き手である自分の「立ち位置」を確認してみるのもおすすめです。
➡︎Vol.2「伝える」「伝わる」文章を書くために必要なステップとは
クリエイティブにおけるキャッチコピーや文章は、的確かつ読ませる工夫が不可欠。
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